弁護士ブログ(日々の出来事)

2013年5月18日 土曜日

労働委員会の研修で水町教授の講演を聴く(その2)

 先日に引き続いての研修会での水町教授の話である(約束した翌日に更新できず申訳ない。)。
 教授は、「労働審判制度において弁護士はどのような役割を担っているか?」ということに続いた。労働審判での弁護士依頼率は労使とも8割以上なっている。弁護士の評価については労使双方とも高いということであった。ただし、弁護士費用については労使双方とも、「(非常に・やや)高い」という回答が多く、推測ではあるが、非正規労働者に労働審判の利用を躊躇させている可能性があるという指摘であった。
 
 これをさらに詳細に分析すると、労働者側は、相対的に複雑な事件(弁護士依頼の多い性質の事件)では、弁護士を依頼することにより、解決金を高める効果が大きく、当該労働者の手間や負担感を軽減しているとされている(要するに、弁護士を付けるメリットが大きかったということである)。ただし、その点(弁護士による争点整理や陳述書などの書面の作成といった主張・立証活動が、そのような効果を与えているという点の認識が当該労働者に乏しいということであった(当事者の有利な結果を勝ち取ったという認識や満足感に弁護士の活動が貢献したという認識に乏しい。)。水町教授は、弁護士の役割についての広報活動が必要であるとされている。
 
 この点は、雇用関係の終了が争われる事件で、金銭解決という解決方法について労働者が納得していないということがあるかもしれない。金銭の問題ではないという労働者の感覚と弁護士の多額の金銭を勝ち取ったという感覚では、労働者の満足度に違いがあるのかもしれないという思いはする。弁護士の立場からすると、その点は、金銭賠償という形を取る以上はある程度やむを得ないことだと思う。また労働審判制度が3回の期日で終了し、しかも解決まで3ヶ月はかからないという非常に短い期間に、そのような意思決定を迫られることから、労働者とすると十分に考えることtができない、弁護士に結論を急がされるという思いがあるのかもしれない。
 私も労働者側で労働審判を申し立てたことが何回かあるが、就業規則や賃金規程についても、労働者に十分な知識があるとは言い難く、会社との交渉の過程などをそれなりにきちんと構成し、証拠の足りないところを指摘し、労働審判での2回の期日の間に、ある程度のラインでの妥協を考えるというのは、なかなか大変な作業であるの事実である。その辺りをどのように理解してもらうのはやはり難しいことであるが、丁寧に説明するということをやらなければならないということを改めて実感する。
 
 他方、相対的に簡易な事件については、弁護士を付けるということが解決金の金額を高めることになっていないと分析されている。そのうえで、教授は、弁護士ではなく、労働組合や特定社会保険労務士を労働審判における許可代理人とすることを提案されている。
 確かに、相対的に簡易な事件は、いわゆる訴額(紛争を金額で評価した場合の金額)も高くなく、弁護士がついていても、そうでなくとも、解決金に大きな違いがない場合が多いと思われる。その場合は、解決金と比べて弁護士の着手金や報酬が高い割合を占めることは否定できないが、それでは、労働組合や特定社会保険労務士を許可代理人とした場合に、そのような費用が格段に違ってくるかというとそうはならないと思われる(労働組合の場合は組合の積立金から支出となうrので少し違うかもしれない。)。同じ類型の労働審判だけをやっていれば、そのためのノウハウが積み上げられてその結果としてコストも低く抑えられ、着手金や報酬も安くなる可能性がある。しかし、そのような場合を除けば、弁護士と特定社旗保険労務士で、着手金や報酬が異なるとは思えない(少し違うが、認定司法書士に簡易裁判所での代理ガ与えられたが、簡易裁判所での同じ事件で、弁護士と司法書士の間で着手金や報酬に(有位な)差があるというようには聞いていない。簡易裁判所の事件であるから訴額も大きくなく、コストの面では弁護士も司法書士も大きな違いはないからである。)。この点は、弁護士も小額な事件では着手金や報酬について法テラスの利用などを行っており、その活用で対応するしかないのではないかと思っている。

 使用者側の弁護士依頼の効果については、使用者にとって、弁護士を依頼することが、解決金の低額化や依頼者の手間や負担感に影響を与えておらず、結果についての満足度を高める方向には働いていないという分析結果が出ている。つまり、使用者には、弁護士を依頼する効果が現れていないという不満があるということである。
 この点について、教授は、使用者弁護士は労働審判から通常訴訟に移行した場合の時間や金銭面でのコストを考えて労働審判での解決金を引き上げても調停による早期の解決を考えているのではないかと推測されている。そのうえで、使用者にはそのようなコストの大小や通常訴訟での見込みが十分に予測できないことから、弁護士に対する満足度が低いとされている。
 確かに、私の経験からいっても、使用者側代理人として労働審判の申立てを受けた際には、労働者が雇用関係の継続を主張したとしても、最終的には何らかの解決金の支払により雇用関係を終了させるという解決が可能であると見てよいと思っている。その上で、労働審判において、解決金による交渉が始まった場合は、多少解決金の金額が高くても、通常訴訟で解雇の有効性が争われるといった問題を避け、早期に解決するという観点から、そのような解決を勧める場合がある。その場合に、将来を予測した説明ということになるので、十分に説得性のある説明が出来ているわけではない(特に、賃金に関しては、付加金や遅延損害金の説明が必要となるが、この説明が難しい。金額が膨大となる可能性もあるので、その説明が難しい)。
 このため、依頼者にそのような不満が生じるのには理解がでないわけではない。しかも、判例における労働関係の法令解釈は、大企業はともかくも中小企業の経営者の感覚とは相当に離れている場合があるので、その辺りの説明非常に重要になってくるという教授の指摘は十分に納得ができるところである。


投稿者 あさひ共同法律事務所

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