判例紹介

2013年4月16日 火曜日

株主の総勘定元帳、勘定科目内訳書の閲覧請求

 株主(総株式の100分の3以上を保有する株主)は、株式会社に対し、会計帳簿等の閲覧又は謄写を請求できる(会社法433条1項、2項)。株主にこのような会社法上の権利が「被保全権利」として認められる以上、仮処分では、「保全の必要性」があれば、そのような閲覧・謄写を申請できる(民事保全法23条2項)。小規模閉鎖的会社の場合、相続が絡むとその点が問題となる場合がある。名古屋地裁H』24.8.13決定(会計帳簿等の閲覧謄写仮処分命令申立事件(判時2176号63頁)。

 これらの仮処分は、その後の株主代表訴訟などの訴訟の提起のために行われる場合ガ多いが、仮処分が認められれば、帳簿の閲覧・謄写ができるので、会社法433条の内容が実現されるという意味で満足的仮処分と言われ、大きな紛争となる。
 

 決定は、①株主名簿に付き、会社に対する配当請求の前提として、取締役の責任追及の前提とするものであり、被保全権利性を認めたうえで、保全の必要性につき、代表取締役に弁護士の職務代行者が選任されているとして(その者から見せて貰える)、保全の必要性が欠けるとした。
 

 ②勘定科目内訳書については、法人税の確定申告の際に必要な書類であり、会社法の定める計算書類(及びその附属明細書)に含まれない(つまり会社法上の請求権が及ばない)として、被保全権利ではないとした。
 

 ③総勘定元帳及び総勘定元帳を作成する際の資料となる契約書、信書、請求書、覚書、領収書、発注書、納品書、請書等については、「会計帳簿又はこれに関する資料」として、請求目的が、会社の代表取締役が多額の現金を持ち出していることに対し、取締役の責任追及を目的とするもであるとして、被保全権利性を認め、保全の必要性についても、会社資産を他の会社に移そうとしている事実から、肯定した。

 この問題は、ラ楽天対TBS事件でも問題となったが(東京地裁H19.6.15決定、控訴審は東京高裁H19.6.27金融商事判例1970号)、そのような大企業でhなく、相続が絡む閉鎖的会社でも問題となる事件である。
 

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2013年3月23日 土曜日

破産事件は、どのくらいあるのだろうか

 毎年、この時期になると、前年の裁判所で扱った破産事件の概要が金融法務事情に掲載される(1965号)。札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、広島、高松、福岡の裁判所である(いずれも本庁-福岡の場合は北九州、久留米を除く福岡地区だけである)。
 

 平成24年(1月から12月)での新受件数を平成18年と比較すると相当に減少している(札幌4817→2779、仙台2313→943、東京25694→15923、名古屋4791→2587、大阪11921→7034、広島2632→1356、高松801→358、福岡4614→25299.ただしこのうち法人は減少していない((札幌144→190、仙台20年との比較94→46、東京2421→2866、名古屋267→385、大阪777→785、広島80→121、高松資料なし、福岡161→171)。

 つまり、自然人破産がかなり減ったということになる。この傾向は、24年だけのことではなく、この数年のことである。以前は、サラ金破産となった人が、逆に過払金がはいることになって、破産を免れたということなのかもしれない。
 

 このことは、破産事件の中で破産管財人がつけられる事件が増えたことにも表れているように思う。法人の破産事件では、ほとんど全事件で管財人がつけられる。それ以外の自然人の場合にどの程度の割合で管財人がつけられているかは、裁判所の運用によって異なるが、東京地裁では弁護士数が多く少額管財事件制度もあって6割近い事件で管財人が付されており、資料から直接読み取れないが自然人の場合も3割以上の事件で管財人が付されているようである(名古屋もほぼ同様である。)。

 札幌は自然人管財人律が25パーセント、大阪地裁では、全事件で3割、自然人管財事件で2割程度である。福岡では全体で2割弱、自然人管財で12パーセント程度である。自然人破産事件における換価基準そのものは裁判所による大きな違いはないようであるが、運用については、微妙に違いがあるようである。

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2013年3月10日 日曜日

銀行への弁護士会照会(東京地判平成24.11.26)

 一般の人にはわかりにくいかもしれないが、弁護士法には、弁護士会が、会員(弁護士のこと)の受任している事件についての申出を受けて、適切な場合は、公務所または公私の団体に対して、その報告を求めることができる(弁護士法23条の2)。

 これは、提訴前にできることから、弁護士にとって非常に便利な制度となっている。例えば、携帯電話の番号しか分からない場合に、液体電話会社にその番号での登録住所を知る場合などである。

 どのようなことまで照会できるかどうかの問題もあるが、紹介先にこれに応じて報告する法的な義務があるのか、拒否された場合はどうなるのかなど問題点が多く存在する。応じるべき義務につては、この制度が弁護士法という法律に定めがあることから、照会先は、これに応じるべき法的義務があると考えられている。ただし、照会先も照会された事項が第三者の個人情報であることから、その第三者との関係で守秘義務がある場合など簡単にこれに応じられないということがある。

 また、照会先にこれに応じるべき法的義務があるとしても、拒否された場合に、照会するのは弁護士会であって、個々の弁護士ではなく、また依頼者ではないから、だれが照会先に対し、何らかの請求をできるかが問題となる。
 

 この判決(東京地判平成24.11.26金融法務事情1964号108頁)は、銀行に対する照会を、銀行はこれを拒否した事案についての判断である。この事件は、債務名義を持った個人が、相手方の取引先と考えられる銀行に対して、①銀行預金濃霧、支店名、口座番号などの照会、②相手方が個別の口座から第三者への送金の事実の有無などを、弁護士会を通じて照会したところ、銀行がこれを預金者の同意が確認できていない、顧客の応諾不可につき回答不能などの回答がされた。
 

 このため、依頼者が、銀行を被告といsて、銀行には弁護士会に対する報告義務が存在すること、②銀行が報告しないことが依頼者に対する関係で不法行為に当たるとして慰謝料を請求した事件である。
 

 判決は、①弁護士会照会に対する報告義務が法的な義務であることを確認したうえで、照会を受けた銀行に報告しない正当な理由がある場合は、報告を拒絶できるとしている。
 

 ②正答理由の判断に際しては、弁護士会照会制度の司法制度における重要な役割に照らし、また決済機能を独占する銀行の公共的責務という観点からすると、金融機関の一般的な守秘義務を考慮しても報告しないことに正当な理由があるとは言えないとする(債務名義が存在する以上、権利者からの義務者の預金状況については権利者に対する関係では保護されるべき営業秘密とは言えない。義務者の第三者への送金の状況も同様に権利者との関係では保護されるべき営業秘密ではない。)。
 また、弁護士会へ報告することは正当行為であり、預金者に対する不法行為にはならないとしている。

 ③依頼者が、銀行に弁護士会への報告義務濃霧を確認する訴えの利益があるかについては、こうれを肯定している(理由は銀行が応じないことにより、依頼者(債務名義上の権利者)の義務者に対する権利が侵害されている。依頼者は弁護士会照会により保護されるべき権利の救済を求めるため、公法上の法律関係の確認の訴えとして、報告義務の確認を求めることができる。)。

 ④慰謝料請求については、報告義務についての判断が明確でないことなどの事情から銀行に違法性についての認識が無かったとして、請求を棄却している。

  この判決に、銀行は控訴している。預金者の保護されるべき正当な利益を、債務名義の存在を理由として、弁護士会照会による利益より低いものとみている点など興味深い判決である。

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2013年3月 7日 木曜日

賃借人からの解除(東京地判平成24年6月26日)

 不動産賃貸借契約の賃借人から行う解除は、結構微妙な問題である。家屋賃貸借契約における賃貸人からの解除は、信頼関係破壊の理論に基づいて単純な債務不履行では解除はできないとされている。では、賃借人から行う解除の場合はどうであろうか。
 

 信頼関係破壊理論は賃借人保護という要素が大きいと考えられる。ただ、民法は賃借物の一部が滅失した場合はその残存する部分のみでは賃貸借の目的を達しない場合に限って賃貸借を解除できるとしているばど(611条2項)、一部の債務不履行があってもそれだけでは解除できないという立場に立っていると思われる。

 そこで、賃借人は、賃貸人にどのような債務不履行があれば賃貸借契約を解除できるかという問題は結構大きな問題となる。
 

 それは、賃借人からの債務不履行解除が認められない場合は、単なる中途解約の申し入れということになり、中途解約の場合は、例えば6か月間の予告期間を要するとか、敷引特約がある場合は、その分の敷金が差し引かれるからである(債務不履行解除が認められる場合には、敷引特約は働かないと考えられている。)。

 そうなると店舗や事務所などの場合は、1年程度の賃料分が返還されるかどうか、という結構大きな問題となることになる。
 

 東京地判平成24年6月26日(判例時報2171号62頁)は、東京新宿のビルの地下1階を賃借したテレマーケティング業者が日常的にコバエが発生しており、それが賃貸人の賃貸借契約上の債務不履行に当たるとして、経済的損害、無形の損害についえの損害賠償責任が認められたがそれに基づく解除は認められかったケースである。
 

 この裁判例は、日常的なコバエの発生の事実、その発生原因がビルの汚水槽の機能や構造にあるとの事実を認めたうえで、従業員が不快感を持つとともに、、事務に集中できない、コバエ対策のために総務担当の事務員がゴミの処理について従業員に注意を促す広報に従事するなどの余分な業務が増える、窓が開けられない、外部から来た客の不快感に苦慮するなどの事実を認めて、本件賃貸借契約の目的に沿った賃借人の利用が一定程度背言されたとし、賃貸借契約上の賃貸人の債務不履行の成立を認め、損害としてコバエ発生の調査費用、コバエ発生のために退職者がでたことからその補充のために増加した労務費の一部いついても、損害を認め、さrない無形の損害(上記従業員の不快感など財産上の損害と異なる「数理的な算定のできない無形の損害」を認めている(ほぼ1か月の賃料と同額)。

 このように、賃貸人の債務不履行は認められ、一定程度の損害の発生は認めたものの、信頼関係が破壊されていたということはできないとしたものである

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2013年2月13日 水曜日

ホームページ作成とリース契約(大阪地判平成24.5.16)

 ホームページ作成がリース契約上で問題となった裁判例が出されている。大阪地判平成24.5.16(金融法務事情1963号114頁)である。うサプライヤーとユーザーとの間では、サプライヤーユーザーにホームページ作成用ソフトを提供し、ホームページを作成し、その後、そのホームページがより閲覧されるように、検索エンジンの最適化対策(SEO)妹尾をして貰うなどのメンテナンスを受けるというものである。

 もともとのホームページ作成用ソフト自体は5万円程度のものであり、ユーザーとしても、そのソフトを利用して他社のためにホームページを作成して販売するというようなことをやるつもりがない。

 言ってみれば、本来は当初のホームページの作成のためにある程度の費用は発生するが、その後は、もっぱらSEOを使ってのメンテナンスということが中心となる。

 そうすると、最初のホームページの作成ソフトを使ってのホームページの作成については、立替払いということになって、残りのSEOを使っての管理は、賃料と同じように毎月生じる分を支払うということが実態に適合した契約関係ということになると思うが、そうなると中途解約の問題や、売上を早急に回収したいサプライヤーの思惑もあって、リース契約という外形を使うことが考えられたということになったと思われる(また技術革新の速度が速いことから途中で他社のものに乗り換えられないようにリース契約という形を取ることがサプライヤー経済的合理性に適合するということもあろう。)。
 


 この裁判の事案は、このようなサプライヤーがリース期間の途中で倒産したということでユーザーがサービスの提供を受けられなくなって、リース会社に対して、残リース料の支払い義務ばないことの確認と、既払リース料の返還を求めた事件である。
 

 もともとリース対象物件とはしにくいものであるが、リース契約書に書かれている物品名はサプライヤーの社名のオリジナルソフトとされていた。リース会社の担当者は、ユーザーに対し、ホームページの作成など役務の提供がふくまれないかと確認したようであり、役務を受けられなくともリース料(毎月2万円弱)の支払いを免れない点を説明しないまま、ソフトの検袖は終わったと判断したようである。
 

 このような場合は、リース契約の対象について、サプライヤーとユーザー間のものと、リース会社とユーザー間のものとで異なるとして、リース契約は無効であるが、ユーザーがそのような空リースに加担したとしたとして、信義則上、その無効をリース会社に主張できないという解釈も成り立つ場合であり、逆に、ユーザーはもともとその商品の内容を正確に理解しておらず、当該リース会社がそのような役務の提供の場合にリース契約を結ばないという方針であることを知らず(このことは通常知られていないと思われる。)、リース会社をだますという意思も無かったとして、リース会社に対してリース契約の無効を主張できるとしたとしてもそれほどおかしな事案では無かったのかもしれない。また、一定期間はサービスの提供を受けていたという事実もある。
 

 この判決では、リース会社にユーザーに対する質問などの点で落ち度があるとし、リース会社側の落ち度の方が、ユーザー側の落ち度より大きいとして、サプライヤーに対する抗弁を信義則を根拠にリース会社にも主張できるとして、将来分のリース料債務の不存在を認めている。この事件は控訴されたものの、その後取り下げられて、確定している。
 

 実態からすると、毎月の支払い分について、サービスの提供を受けなくなた時期以降の支払いを免れるという結論はある意味では当然のように思われるが、リース契約という枠組みの中でそれが可能なのかは、検討される必要がある。

 この事案ではサプライヤーが倒産しているが、サプライヤーが倒産しておらず、ユーザーとしては、サプライヤーが当初話していたような検索エンジンの効果が上がらないというような理由で、サプライヤーの債務不履行を理由としてリース料を支払わないというような場合はどうなるのか、といった問題も生じるように思う。

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