判例紹介

2013年7月15日 月曜日

専門家責任(金融法務事情の金法判例digestから)

 判例金融法務事情(1973号2013年7月10日号)の金法判例digest88P以下に、隣地との境界について、作成されていた実測図を信じて土地を買ったところ、隣地の所有者との間で境界が問題となり、敗訴した土地取得者が実測図を作成したÝ土地家屋調査士に対しし損害賠償を求めた事件(東京地判決ℍ24.4.12)は、当該実測図が周辺土地の関係者の立ち合いの下で作成されたものであって、作成の過程でÝに過失が認められないこと、本件実測図が、最終に境界立会を作成する前提として、関係者に送付されたものであって、xのような第三者に対して責任を負うことはないとした。

 
 次に、弁護士が作成した書面(マンションの滞管理費などの滞納日費の有無とその額について書かれた書面を信じて、そのマンションを取得した者に対する不動産取得代金を融資した金融会社が、滞納費の内容が事実と異なるとして、作成した弁護士に対し不法行為に基づく損害賠償を求めた事件(東京地判ℍ24.5.17)について、同判決は、弁護士が作成した同書面は、依頼者に対する関係で作成された書面であり、第三者への開示を予定している書面ではないこと、依頼者が、この書面を当該不動産の担保価値を証明する書面として使う意思がなかったこと(たまたまxが知ったに過ぎない)、x(金融会社)にしても、金融の専門家として、弁護士の作成したそのような文書のみを信じて融資を行ったとは考えられないことなどを理由として、賠償義務を否定している。
  

 弁護士として意見書の作成を求められる場合はしばしば存在する。そのような場合、意見については、まさに意見なので、よほどのことがない限り問題とはならない。しかし、事実証明の要素が大きい文書だと、確かに少し問題が出てくる場合がありうる。ただ、保険会社が使う調査会社の報告書や企業情報などは、第三者への開示が禁じられており、第三者からその誤りについての損害賠償請求を逃れるようになっている。

 この辺り、つまり、何の目的で、どの程度の詳細な報告書を作成するかは、ますます問題となるように、思う。

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2013年7月14日 日曜日

土地区画整理事業内土地の売買契約と瑕疵担保責任(最2小判H25、3、22)

 土地区画整理事業内の土地の売買契約後に、その土地に整理組合から賦課金が課された場合に、買主が売主に瑕疵担保責任(民法570条)を問うことができるかという問題である。整理組合が費用の捻出のために販売予定であった保留地の売却がうまくいかず、売買された各仮換地に賦課金を課した。この場合、契約時に仮換地の売主が賦課金がすでに発生していたとすると、それにつき善意の買主が瑕疵担保責任を追及できそうである。発生の可能性があったにとどまる場合が問題となる。「賦課金発生の可能性」をもって瑕疵といえるかどうかというこおtになる。可能性という言葉は、実現の具体性の有無によって区別をつけるということは考えられ、その発生の可能性が高い場合は、その瑕疵が存在していたという場合と同じように扱うこtが可能である(つまり瑕疵性を肯定する。)。

 ところが、その可能性にとどまる場合はどうであろうか。賦課金の発生時期は、契約成立後であり、後発的な事由については、買主が負担すべきものであって売主が負担すべきものではないと考えると、可能性にとどまる場合は、買主がふたんすべきリスクであって瑕疵に当たらないと考えられる。
 

 最高裁判決はそのように考えて、賦課金発生の可能性は意パン的な具体性を帯びていたとは言えず、抽象的なものにとどまるとし、その場合は、売主は瑕疵担保責任を負わないとした。
 

 この判断は、後発的な理由(例えば、隣地にマンションが建ったことによって景観、日照の瑕疵が生じたというような場合に、隣地のマンション建築の具体化の程度などで結論が異なる場合があるkとを示している(むろん、瑕疵担保、説明義務違反などいろいろな方法が考えられる。)

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2013年6月 6日 木曜日

将来債権の譲渡後に譲渡禁止特約付きで生じた債権譲渡と民法468条2項但書(東京地判平成24.10.4)

 債権者A、債務者B間の将来債権について、AからCに譲渡され、その後に発生した将来債権について債権者債務者間(AB間)でり譲渡禁止特約が合意された場合、その債権はAからCに譲り受けられることになるのかどうか。この点が、この譲渡禁止特約つき債権を差し押さえたD(国)との間で問題となった事件がある。将来債権の譲渡契約の際には、その将来債権に譲渡禁止特約が付されるかどうかは分からない。そうすると、民法466条2項但書で、譲渡禁止特約は善意の第三者に対抗できないとされているので、Cが譲渡契約時にそのようなことを知るはずがないので、466条2項但書の第三者に当たるというこtも考えられる。他方、将来生じる債権について、その債権をどのようなものとするか(どのような条件を付けるか)は、債権者債務者間でその時点の状況で合意されることであるから、そもそも466条2項但書の適用はないとも考えられる。
 
 この点について判例(東京地裁平成24・10、4判例時報2180号63頁)は、2項但書の適用はなく(将来債権の譲渡時点での善意を論じるのは不可能で無意味とする。)、その結果CDが対抗関係に立つことがないので、差押を行ったDを勝たせた。譲渡禁止特約により当該債権はCには譲渡されていないという理解であろう(準物権行為説による)。

 将来債権の譲渡は債権者Aを拘束することはあっても、AC間でどのような性質の債権とするかについては、なんらの効力も生じないと考えるべきであろう(Cが拘束される理由は全く存在しない。)。将来債権の譲受人となる者は、請負債権など特段の条件が付される可能性を、将来債権に関する譲渡の合意の際に考慮しておけ、ということであろう。そのような態度決定は、十分に支持できるものである。


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2013年6月 3日 月曜日

保証債務の書面性(東京高裁平成24.1.19判決)(金融法務事情1969号100p)

 保証債務については、書面でしなければ、その効力を生じないと規定されている。(民法446条2項)。なお、この点は連帯保証の場合も同様である。このため、色々な契約書の作成に際しては、契約者本人のほかに、保証人(連帯保証人)も同席してもらって直接、契約書に署名・押印をしてもらっている場合が通常である(最近、私が契約に立ちあった際も同様であった。)。銀行からの借入れの場合などはそのように行われているのが通常である。ただし、すべての場合に保証人に契約書への署名、押印が必要かというと、たとえば、保証人が手にけがしていて署名・押印ができない場合などに、代筆させることも可能である。民法446条2項は、保証人の責任が重いことから、保証を慎重にさせるために、保証契約に様式性を求め、保証人の保証意思が外部的にも客観的にもあきらかになることを求めていると解されている。

 このため、銀行借入れの場合などはあまり問題とならないようだが、個人事業主で、第三者保証が必要な場合、当に、リース契約や立替払契約のような場合は、契約書作成の場にその保証人が色々な事情で同席しない場合があり、後日、その保証人欄の筆跡が、当人のものではないということで、保証契約の成立が争われることになる場合がある。なお、リース会社は、筆跡の点を確認できないため、連帯保証人とされている人にに対して電話を掛けるなどして確認を行うというシステムになっているが、その確認電話に出た人がその当人かどうかが争われることになる。
 

 この事件も、電話機リースの事件で、契約者の妻が連帯保証人の責任を問われたケースである。第1審(東京地裁平成3.6.6)は、契約書の保証人欄の記載は夫の筆跡であるとの疑いが強いが、印章は保証人とされている妻のものであること、妻は事前にはリース契約を結ぶことに同意していたこと、リース会社の担当者からの電話確認につき、その掛けた時間や、電話の内容のうち、名前、生年月日、性別が一致するとして、保証人欄の押印は、保証人(妻)の意思に基づくものと推認できるとし、結局、保証人欄の署名押印は、保証人(妻)以外の者が行ったとしても、妻の保証意思が示されたものとして、保証の成立を認めた。

 
 これに対し、控訴審(本判決 金融法務事情1969号100p)は、保証契約書の署名が保証人の自著でないこと、印象も保証人の指示に基づいて押印されたと認める証拠はないこと、リース会社の担当者の電話メモも保証意思の確認内容として、「yes」と記載されているだけで、電話に出たものとの間の具体的にどのようなやり取りがあったのかの記載がないとして、保証人が出たのかどうかが疑念があるとし、上記電話の際に、保証人欄での署名押印に本人のものか、第三者に代行させたものかなどについての会話の記載もないとし、結局、保証人欄の記載が、保証人の意思に基づくものであると認められないとしている。
 

 この判決は、その後上告されたが、上告不受理、上告棄却で確定している(最三小H25.1.13)。
この判決は、事例判決だが、保証意思の確認の際(電話確認を含む)には、保証人欄への記載についても、同人の筆跡なのか、(契約書作成時にはその場にいなかったかどうかの確認、いなかった場合はどこで署名・押印を行ったのか、さらに、同人の筆跡でなければ、その理由の確認、さらに保証意思の具体的な確認などが必要とされよう(そのようにしても、完全ななりすましの場合は、見破るとができないかもしれない。)。

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2013年5月25日 土曜日

弁護士会照会と銀行の守秘義務(東京高裁平成25.、4.11)

 弁護士法23条の2に基づく銀行への照会に対して、銀行が守秘義務(預金者の秘密)を理由に拒否した場合に、その弁護士ないしは依頼者と銀行の関係はどうなるのか、という点に関する判例である。原判決(東京地裁平成24.11.26)は、この点で、次のような見解を示して、注目を集めた(このブログでも紹介した。)。
 弁護士法23条の2に基づく照会は、弁護士会が個々の弁護士からの申し出を受けて、弁護士会がその要件を検討したうえで、各種機関に対し照会するものであり、照会先は弁護士会に対する回答義務を負っていると解されている。そしてその性質は公法上の義務であると理解されている。ただし、銀行は他方、預金者の秘密を守る義務があり、弁護士会からの23条照会を受けたとしても、その義務が当然に重いといえいるかどうかは、慎重な検討が必要である(ここまでは、ほとんど争いのない共通の理解である。)。

 このことを前提として、原判決は、この事案(債務名義を種痘した債権者が、債権差押さえのために、債務者の預金の有無を調査しようとした事案)において、回答義務が優先するとして、銀行に弁護士会への回答義務があるとし、それを前提として、当該弁護士に、行政訴訟法4条の「公法上の法律関係に関する訴えの利益」があるとしたものである。本来、弁護士会と銀行の間の公法上の権利義務関係の確認につき、これを認めたという点画期的だった。
 控訴審は、従来の考え方(弁護士と銀行の関係からすれば、行政訴訟法4条の適用はないとして、この点を否定した。

 次に、原判決は、このケースで銀行に弁護士会に対する回答義務があることを前提にすると、当該弁護士に対する関係で銀行の不法行為が成立するかどうかの点について、不法行為の前提となる故意・過失の存在につき、23条の回答義務と守秘義務の優劣に関する見解も一致していない以上、故意過失の認定はできず、不法行為は成立しないとしていた。
控訴審は、23条違反が、弁護士会に対する公法上の義務であり、弁護士に対する義務ではない以上、弁護士に対する関係で銀行の違法行為は存在しないとし、故意過失についても、守秘義務と23条違反の関係についえtの最高裁判決もでていない現時点では、認めるこてゃできないとしてその成立を否定している。

 確かに、守秘義務と23条違反について一般的な優劣関係を確定させることはできないと考えられる(その意味では、23条に回答しないというとが、義務違反となるわけではあるまい。ただ、本件のケースは、債務名義がすでに確定した債権者が債務者の預金の有無を調査しようというものであり、預金者の秘密の保護が重要なものというわけではない。現行の強制執行制度上、預金口座の特定が必要であり、そのための債権者の手段の確保という問題と、債務名義を取得されている債務者の預金口座の秘密の保持が、やはりh「同程度守られるべきものなのかどうかという点の判断がもう少し考えられるべきではないかと思われる。この点は、立法的な解決が図られるべき問題なのかもしれない。

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