判例紹介

2013年10月20日 日曜日

中古不動産の売買契約で、契約後地震により生じた毀損を売主が修復して引き渡すべき義務を履行しないことについて、売主に帰責事由がないとされた事例(東京地判H25.1.16)(判例時報2192号63p)

 東日本大震災の前に中古不動産の売買契約を結んでいたところ、その引渡し前に、液状化によって建物が傾いたケースで、引き渡し前に天災地変により生じた毀損について売主が修復して引き渡す旨の特約があった場合の問題である。
買主が、引き渡し受領後に、売主と仲介業者を相手に損害賠償請求訴訟を提起したという事件である。

 特定物に関する売買契約整理後、その引渡し前に生じた毀損については、債権者主義から買主が危険を負担するのが原則であるが、債務者(売主)が修復して引き渡すという特約があった場合である。この論点だけを考えると、買主は修復請求ができるだけであり、せいぜい修復義務の不履行がある場合にどの程度の損害賠償が可能かという問題になるかと思うが、何らかの事情で、売買代金相当額の損害賠償を求めたのであろう(判決文からは、震災後、買主からの問い合わせに対し、売主が毀損はないと答えたようであり(その後の市お調査で半壊程度と認定されている。)、その回答で買主が不信に陥って全面的な損害賠償請求となったのかもしれない。)。

 買主の請求は、売主に対して、①液状化の毀損を知りながらその事実を告げなかったのが債務不履行または不法行為となるとするもの、②予備的❶として引き渡しまでは手付解除が可能だったのにその機会を奪われたこおtによる損害、③予備的❷として仲介業者に修復費用を求めたものである。

 この裁判では、結局、売主が液状化による毀損を知っていたのかどうかの事実認定の問題になっており、それが否定されると(引き渡し時までその事実を知らなかった)、主位的請求、予備的請求❶は成立せず、仲介業者に対する予備的請求❷の成立も難しいことになる。

 判決文からすると、引き渡し後、売主は修復の申し入れをしたが、買主と売主との間で液状化に対する工事内容で合意に至らなかったようであり、売主の提案がそれなりに合理的なものであるとすれば、修復義務の存在を前提としつつも、その特約の前提となる売主の修復義務に関する債務不履行は認められにくいということで買主側の請求は全部棄却となった。

 実際は、液状化に対する合理的な修復方法に一定の合意があれば、和解などで早期に解決するケースなのではないかと思うが、将来に向けての完全な修補を求める側と低廉な相応な修補で足りるとする側との間での合意は難しいところであろう(なお、控訴審で和解が成立しているようである。)。
 

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2013年10月20日 日曜日

保証人が主債務を相続したことを知りながら保証債務を弁済した場合の主債務の消滅時効の援用(最2小H25.9.13)

保証人が、主債務を相続したことを知りながら、保証債務を弁済した場合に、その後、主債務に消滅時効が完成したとき、当該保証人は、主債務の消滅時効の完成とそれに伴う保証債務の消滅を主張できるかという問題である。事実関係は、A銀行の主債務者Bに対する貸付にCが保証人となっていたところ、Bが死亡し、Cのみが相続したというケースで、A銀行を代位弁済した保証協会がCに対し、訴訟をおこしたところ、Cが消滅時効を援用したというものである。第1審、控訴審ともにCの消滅時効の完成の主張を認めている(金融商事判例1426号19p以下)。Cの弁済が保証人としての弁済であって、相続した主債務者を弁済したのではない以上、主債務の消滅時効は別個に進行するということを前提としている(保証協会の主張する禁反言についても、そこまでには至らないとする。)。

 これに対し、上記の最高裁判決(同金融商事判例18p)は、Cは相続により、主債務者の地位と保証人の地位を兼ねることになり、保証債務の附従性に照らすと保証債務の弁済は、通常は主債務が消滅せずに存在することを当然の前提とし、主債務者兼保証人の地位にある者が主債務を相続したことを知りながらした弁済は、それが保証債務の弁済であっても、債権者に対し、併せて主債務の承認を表示することを包含するものといえるとした。したがって、保証人が主たる債務を相続したことを知りながら、保証債務を弁済した場合は、当該弁済は、特段の事由のない限り、主たる債務者による主たる債務者による承認として、消滅時効の中断理由となるとした。

 
 事実関係では、第1審判決でも、Cの単独相続については、他の相続人が相続を放棄し、CがBの相続財産である不動産を売却してその代金の中から弁済をしていると認定されている(この弁済を、AもCも、Cの保証人としての弁済と扱っていたと認定している。)。
 最高裁としても、確定した事実関係として、このようなCの弁済を保証人の弁済と扱うことから、その場合に主債務に対する関係で判示の理論構成となったものと思われる。弁済の場合、誰のどの債務に対する弁済なのかは、細かく言えば、領収書の書き方にも影響して、結構難しい問題であった(例えば、保証人の付されている債務への弁済か、求償権の発生する弁済かなど)。Cとしても、Bの相続人としても弁済かCの保証人としての弁済かについては、消滅時効の完成の問題もあって考え抜いた弁済であったと思われる。
 ただ、「包含関係」については、このケースで、仮にCが相続した主債務の弁済とした場合は、Cの固有の保証債務についての承認も包含しているというのかどうかが気になった。

 実務上は、個人がアパートを経営していて、子供がその連帯保証人の場合は多々存在するので、このようなケースは思った以上にあると思われる。また、夫婦で住宅ローンを連帯債務で組んでいる場合に、その一方が死亡した場合はどうなるのかといった点が気になる。

 もう少し大きな問題としては、このケースはCが主債務を相続したことを知っている場合であるが、法廷単純承認をした場合で、その場合について、単純に主債務を相続したことを知っている場合してよいかどうかという判断の問題(事実認定の問題かもしれない。)である。





  

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2013年10月 5日 土曜日

田原睦夫前最高裁判事の講演録(金融法務事情1978号)

本年4月に退官された田原睦夫最高裁判事の講演録が、金融法務事情1978号(2013年9月25日号)に掲載されている。「最高裁生活を振り返って」という演題のかなり長い講演録である。当然内容もかなりのバラエティーに富んだ講演だったようである。その中で、田原前判事の最高裁判決を書かれる際の意見(法廷意見、補足意見など)を『書かれる際、あるいは「不受理」となって最終的には意見としては書かれていないが、議論をしているものが存在する点など詳しく紹介されている。特に、判決の射程距離に関しては、かなり意識して短く扱われるように補足意見を書かれるなど注意されているようである。また、そのことにも関連するのであろうが、われわれが絶えず意識させられている調査官による判例解説についても、それはあくまで調査官の個人的意見であり、書かれている内容についても「ん?」と感じることがあるということであった。

 
 実は、同じ金融法務事情の田原前最高裁判事の講演録のすぐ後に、民法909条4号但書きが憲法14条1項違反するという平成25年9月4日最高裁大法廷決定が特報として紹介されていた。当然だが、同決定には田原前最高裁判事は関与されていない。婚姻外子の相続分の規定に関する違憲の問題であるので、裁判自体は個別の事件であるが、事例はんだんというわけにはいかない。また、従前の同規定を合憲とした判例も相当数存在するので、どのような論旨の進め方になっているのか興味深く読めた。法律婚の尊重の問題と婚姻外子の相続分の不平等について、立法府の合理的裁量の幅がどの程度のもであるかについて最高裁の判断を示したものであるが、田原前判事の講演録を読んだ後では、そのあたりの書き方が非常に興味深く読めた。

 法廷意見でも補足意見でも遡及効の問題に重ねて論及されているが、やhり実際の扱いとなるとどうなるのか、分かりにくいところがある(本山敦教授が、さっそく具体的な問題を出されている。金融商事判例1425号2013年10月1日号 基準時となる平成13年7月前に遺産分割がされた後に、新たに遺産が発見された場合をどうするか)。

 同じ問題は、相続開始時に当然分割とされている銀行預金の場合がある場合にも生じる。相続財産が、不動産のほかに2000万円の普通預金の場合、婚姻内子A、婚姻外子Bのみが相続人の場合に、Aが銀行から1200万円の払い出しを受けた場合、その後BがAに対し、差額分の200万円請求する場合である(AB間で遺産分割の協議がないので可能だと思うが、その場合は不当利得ということで地方裁判所の管轄となる。)。そして、不動産についての遺産分割はどうなるのであろうか。、
 金銭債権については、相続開始時に当然に分割されているという考え(判例実務)に立つと、金銭債権と他の相続財産では、取扱いが違うことになりかねないが、それで、相続人が全員納得してくれるかはかなり疑問である。

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2013年8月15日 木曜日

借主が反社会的勢力の場合の金融機関と信用保証協会間の保証契約と錯誤

 銀行などの金融機関が信用保証協会の保証を受けて融資し、その後、融資先が反社会的勢力であることが分かり、その後支払いが延滞したことで、保証協会に保証履行を求めた場合に、保証協会が、反社会的勢力に対する保証でありに無効を主張することができるか、という問題で、最近、東京地裁で相反する判決が出されたとして紹介されている(①東京地判平成25.4.23 ②東京地判平成25.4、24金融法務事情1975号94頁)。

 ①判決は、平成20年12月から22年8月までの合計1億3000万円の融資、②判決は、平成20年8月から22年8月までの合計8000万円の融資ということぐらいで(被告はいずれも同一)、事実関係に大きな違いはない。

 ①判決は、平成19年6月に発表された政府の犯罪対策閣僚会議幹事会の企業が反社会的勢力との一切の関係を断つことを基本原則とする企業が反社会的による被害を防止するための指針について」(基本指針)、信用保証協会の公的な性格などを根拠とし、信用保証協会の錯誤の主張を認めた(判決文からは、要素の錯誤と判断された理由については、指針発表後の保証については、合理的意思解釈として、主債務者が反社会的勢力関連企業にに該当するときは契約をしないことが、当然の前提となっているとしている。

 ②判決は、法律行為の要素の錯誤の該当性につき、主債務者の属性(反社会的勢力でないこと)は、保証債務の法律行為といsての要素ではないとし、そのうえで、動機の錯誤(重要性-相手方に明示されていること、因果性)の判断に際し、主債務者が反社会的勢力でないことが保証の際の前提であるというが金融機関に示されていたというkとはできないとして、信用保証協会側の抗弁を認めてなかった。

 保証契約において、主債務者の属性をどの程度前提とするかどうかは、価値判断のわかれるところである。特に反社会的勢力であるかどうかは、融資時(保証時)には容易には分からない。細かい場合分け(金融機関の調査義務の程度を、融資先との関連性の深さにより、操作する-新規なのかどうか、持ち込みがどうか、金額など)により結論を異にすることは考えられるかもしれない。また、反社会的勢力の根絶という点をどのくらい評価するか(保証を認めることで結果的に反社会的勢力を支援することになる)、によっても別れる。

 錯誤という一刀両断的な解決が適切かどうかも問題となるであろう(金融機関、保証協会双方とも被害者と考えられる。)。
今後の裁判例も積み上げられていくと思われる(同種事案裁判例として、大阪高判平成25.3.22金融商事判例1415号)。

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2013年7月20日 土曜日

耐震性に問題がある建物の明渡し請求と正当事由(東京地判H25.1.25)

 古い建物なので耐震性に問題があるので、取り壊したいとして家屋の明渡しを求められるケースがある。建物は朽廃しない限り、家屋賃貸借契約は終了しないということで、従前はこの「朽廃」という言葉の実態について色々な主張がなされたが、なかなか朽廃が認められたことはなかった。、
 

 そこで、次に、旧借家法1の2の明け渡しを求める「正当事由」の有無が争われるようになったが、正当事由が認められる例はすくなかった。建築基準法違反や消防法違反があり取り壊しが求められるというような理由で正当事由の存在が認められたことは無く、正当事由の要素の一つとしてまでは考えられていなかったように思われる。
 

 耐震制に欠ける場合も、消防法違反や建築基準法違反の場合と同じような判断かと思っていたが(それだけでは正当事由にならない)、なかなかその点に触れた裁判例にを見つけることができなかった。この判決東京地判決ℍ25.1.25(判例時報2184号57P)は、建替えの必要性に関連するものとして、正当事由の判断要素に当たるという点を認めた事例である。

 事案関係は、東京の3階建ての建物(昭和49年新築)の1階の1部を昭和58年に歯科診療所用として賃借した賃借人に対し、賃貸人(承継人)が、その明け渡しをもt目たもので、賃料は月額19万円となっている状態で、平成22年(賃貸借開始後28年経過時)に明け渡しを請求。その際に、耐震基準をクリア指定おらず、建物が築後40年近くになっているおり、建替えの必要性を主張(立退料として、6000万円(うち営業保証4000万円)の提供を主張した。

 裁判所は、耐震性に問題のある建物を取り壊し、新たな建物を建てることは合理的であるとし、新たな建物計画の合理性を認め、建物明け渡しの必要性を認めた。他方、賃借人に当該建物使用の必要性(歯科として同建物で相応の収入を得ていることを認定)を認めたうえで、立退料による補完が認められると判断し、当該歯科医師の売上を年間3600万円として、営業休止補償証額を1682万とし、最終的な金額を5800万円程度認め、立退料総額を6000万円とすることで、正当事由の補完を認めている。

 無論、事例判決だが、耐震性に問題がある建物につき、その取り壊しと新築する建物の具体的計画があることで建物取り壊しの必要性が肯定され、相当な立退料の提供により正当事由の補完を認めた裁判例であって結構興味深い。

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