判例紹介

2013年3月10日 日曜日

銀行への弁護士会照会(東京地判平成24.11.26)

 一般の人にはわかりにくいかもしれないが、弁護士法には、弁護士会が、会員(弁護士のこと)の受任している事件についての申出を受けて、適切な場合は、公務所または公私の団体に対して、その報告を求めることができる(弁護士法23条の2)。

 これは、提訴前にできることから、弁護士にとって非常に便利な制度となっている。例えば、携帯電話の番号しか分からない場合に、液体電話会社にその番号での登録住所を知る場合などである。

 どのようなことまで照会できるかどうかの問題もあるが、紹介先にこれに応じて報告する法的な義務があるのか、拒否された場合はどうなるのかなど問題点が多く存在する。応じるべき義務につては、この制度が弁護士法という法律に定めがあることから、照会先は、これに応じるべき法的義務があると考えられている。ただし、照会先も照会された事項が第三者の個人情報であることから、その第三者との関係で守秘義務がある場合など簡単にこれに応じられないということがある。

 また、照会先にこれに応じるべき法的義務があるとしても、拒否された場合に、照会するのは弁護士会であって、個々の弁護士ではなく、また依頼者ではないから、だれが照会先に対し、何らかの請求をできるかが問題となる。
 

 この判決(東京地判平成24.11.26金融法務事情1964号108頁)は、銀行に対する照会を、銀行はこれを拒否した事案についての判断である。この事件は、債務名義を持った個人が、相手方の取引先と考えられる銀行に対して、①銀行預金濃霧、支店名、口座番号などの照会、②相手方が個別の口座から第三者への送金の事実の有無などを、弁護士会を通じて照会したところ、銀行がこれを預金者の同意が確認できていない、顧客の応諾不可につき回答不能などの回答がされた。
 

 このため、依頼者が、銀行を被告といsて、銀行には弁護士会に対する報告義務が存在すること、②銀行が報告しないことが依頼者に対する関係で不法行為に当たるとして慰謝料を請求した事件である。
 

 判決は、①弁護士会照会に対する報告義務が法的な義務であることを確認したうえで、照会を受けた銀行に報告しない正当な理由がある場合は、報告を拒絶できるとしている。
 

 ②正答理由の判断に際しては、弁護士会照会制度の司法制度における重要な役割に照らし、また決済機能を独占する銀行の公共的責務という観点からすると、金融機関の一般的な守秘義務を考慮しても報告しないことに正当な理由があるとは言えないとする(債務名義が存在する以上、権利者からの義務者の預金状況については権利者に対する関係では保護されるべき営業秘密とは言えない。義務者の第三者への送金の状況も同様に権利者との関係では保護されるべき営業秘密ではない。)。
 また、弁護士会へ報告することは正当行為であり、預金者に対する不法行為にはならないとしている。

 ③依頼者が、銀行に弁護士会への報告義務濃霧を確認する訴えの利益があるかについては、こうれを肯定している(理由は銀行が応じないことにより、依頼者(債務名義上の権利者)の義務者に対する権利が侵害されている。依頼者は弁護士会照会により保護されるべき権利の救済を求めるため、公法上の法律関係の確認の訴えとして、報告義務の確認を求めることができる。)。

 ④慰謝料請求については、報告義務についての判断が明確でないことなどの事情から銀行に違法性についての認識が無かったとして、請求を棄却している。

  この判決に、銀行は控訴している。預金者の保護されるべき正当な利益を、債務名義の存在を理由として、弁護士会照会による利益より低いものとみている点など興味深い判決である。


投稿者 あさひ共同法律事務所

カテゴリ一覧

カレンダー

2022年9月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30