判例紹介

2013年2月10日 日曜日

建物賃貸借契約、償却費、敷引特約(判例時報2169号)

 昨日のブログで、敷引特約に関する最高裁判例と久間教授の論文を紹介したが、最近の裁判例で、この点に関する具体的な裁判例があったので紹介する。

 裁判例は、東京地判平成24.829(判例時報2169号(平成25年2月1日号)16頁)である。なお、判示事項は、賃貸ビルの延焼で賃貸伯契約が終了した場合の賃貸人の賃借人に対する債務不履行責任などが認められた事例とされているが、紹介の対象は、賃貸借契約に際して賃借人が差し入れた保証金の返還請求とその際の償却費(324万円-賃料の約9か月分)控除の可否の問題である。
 

 判決は、償却費の定めについて、賃貸借契約書にはいかなる趣旨の金員かについての明示が無いとし、①共益費が別に発生しており、共用部分の通常の使用や損耗や管理については共用費用があてられること、②ビルの通常の損耗については賃料に含まれると解されること、③賃借期間の長短にかかわらず償却額が同一であること、④「償却」という貸主に一定の費用が発生していることを前提とする名称が用いられていること、といった事実を認定している。
 

 そして、償却費について、賃借人が立ち退いた際に賃貸人に生じる費用や経済的損失、すなわち、原状回復した状態以上に賃貸目的物を魅力的にするための工事費用や空室損料を賃借人に負担させる利害調整のための金員であるとして、その償却費がいわゆる敷引金と認められるとしている。
 

 そのうえで、敷引金について、特段の合意のない限り、賃貸人の責任によって賃貸借契約が終了した場合など当事者が予期しない時期に契約が終了した場合についてまで敷引金を返還しないという合意があったとは認められないとして、賃貸人に賃借人への全額の支払い義務を認めている。
 

 この裁判例は、東京銀座のクラブの入っているビルの場合であり、賃借人が事業者であり消費者契約法の適用のない事案であるが、敷引特約の意味内容について、「原状回復した状態以上に賃貸目的物を魅力的にするための工事費用や空室損料を賃借人に負担させる利害調整のための金員である。」とするものである。
 

 仮にこのケースが消費者契約法の適用のある場合であっても、このような目的で敷引特約を定め、その金額が合理的なものにとどまる場合は、消費者契約法10条後段の「消費者を一方的に害する」という判断には至らないことを示していると考えられる。
 

 たとえば、賃貸ビルの全面的な改装や、そこまで至らなくともエレベータの取り換えといった費用を要する工事を前提として償却費という名目で賃借人から金員を収受することは、その配分が合理的である限り、問題はないということになる(事業者の場合は契約自由の原則から当然であろう。)。
 

 消費者の場合も、たとえば、各部屋のエアコンを全面的に入れ替える、入口をオートロックにするために取り換える、といったことは、原状回復を超える改装のための費用(有益費と一応考えられる。)分を敷引特約で定めておくというのであれば良いということになりそうである。

 ただ、当然のことだが、入居時に入居後の改装とそれにかかる費用の予測ができるわけではなく、それが入居時に示されることはないだろう。

 実際に何に使われるかもわからないし、そうすると、この判例がいうような賃貸人と賃借人の合理的配分はありうるのかも、はっきりしないことになる。結局、なんとなく、その程度なら普通考えられる範囲かどうかという判断ということになりそうである。



投稿者 あさひ共同法律事務所

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